3月25日(土)
こないだ村上春樹『一人称単数』を読んだ。向けられた謂れのない憎悪を書くのが本当にうまいなと思った。謂れのない憎悪というものが生じてしまう、それは仕方のないことかもしれない。読んでいるうちに、心のなかのザワザワしたものがすっと落ち着いてくる。そうやってやり過ごすことができて初めて、それは謂れのないものですと反論ができるものだ。
3月23日(木)
2月半ばにH.A.B(エイチアンドエスカンパニー)から単著『ナンセンスな問い 友田とんエッセイ・小説集 Ⅰ』を刊行してもらい、また下北沢の本屋B&Bで『ふたりのアフタースクール』のトークイベント、広島の蔦屋書店でのトークイベントや文学フリマなどなどあれこれ詰め込んだ予定で息が上がっており、3月はちょっとセーブして、毎日一つのことに集中しながら過ごしていたら、もう月末が見えてきた。
1月末から読んでいた柄谷行人『力と交換様式』(岩波書店)がとてもよかった。大事なことは繰り返し述べられるので、忘れやすい私もいくらかは覚えている。マルクスが生産様式ではなく、交換様式の重要性に気づいていたこと、交換という行為には見えない「力」が働いていること、ギリシアやローマが辺境であったが故に、オリエントのような専制政治的な国家が成立しなかったこと、それはまたローマ帝国後のヨーロッパもまたそうであったこと。この「辺境」であったからこそ、著者が好意的に見ている状況が生じた、という考え方は、何か現代の問題を解くためのヒント、期待、そこに巻き込まれている人々への励ましになっている。大量に付箋は貼ったので、もう一度、頭から見直して整理したい。